なぜ私は“普通のタングドラム”を作らなかったのか③

私が「普通」のタングドラムから外れていったのは、大前提として他の楽器との演奏を念頭に入れいていたからです。

タングドラム単体で演奏する場合には音の余韻が長く、癒しの音色を響かせれば良いと思います。

しかし、他の楽器と演奏するならば時として、その特徴である「癒しの音色」がちょっとした妨げになってしまうこともあります。

 

私は打楽器を幅広く楽しんでいますので、プロパノータも打楽器としてみています。

打楽器は一般的にはどの楽器とも相性は良いと言われ、その理由は特定の音程を持たないことだそうです。

 

金属製のタングドラムの場合、音の余韻が長く、音程もあるので打楽器として感覚的に演奏すると、時としてちょっとモヤモヤすることがあります。

それは音程のある楽器と演奏すると音の相性があったりするからなんですよね(加えてその余韻の長さもマイナスに働くことがあります)。

 

その様な理由から、ドレミファソラシドが実現でき、次の段階に進むころには「響かせて響かせすぎない」という相反することが自分にとっての課題となっていきました。

 

楽器製作を始めたと言っても完全な独学。材料調達もホームセンターや百均などにある身近なものをいかに使うかというアイデア勝負です。

その際に見つけたのが「水泳帽」。

サイズもちょうど良くカプッと被せれば音がミュートされ、木魚的なポクポク感のある楽器になります。

ちょっと余韻がカットされるだけでもだいぶ打楽器感が増えていきます。

 

付箋を貼り付けた奏法もおすすめしていますが、付箋奏法は全くの偶然から発見できました。

 

お客さんへ発送する際に、それぞれの音板が何の音であるのかを示すために付箋を貼り付けそのまま鳴らしたところ、ピコピコとあたかも電子音のような響きに心躍りました。

 

通常オーケストラで登場するような西洋楽器には、いわゆる「さわりノイズ」はありません。西洋楽器では御法度のようです。

しかしアジアやアフリカには敢えて「ノイズ」を生み出し、「独特のノリ」を発生させる楽器がいくつもあります(日本の三味線のその一つです)。

 

私も打楽器を始めたばかりのころは「さわりノイズ」はない方が良いと思っていましたが、続けていくうちにそのノイズの良さがわかるようになっていきました。

 

ある打楽器専門店のスタッフの方が「きれいな音だけだと疲れる」と仰っていました。

私もその意見には同感です。

ごく最近のことですが響きと余韻を重視したモデルのご注文を受け製作しました。

依頼通りの響きが実現でき、とてもご満足いただき、私もまた満足していました。

ちょっと音出しをして一緒に遊んでみましたが「響きの長さゆえに合わせにくい面もあるねぇ」という感想をお互いが持ちました。

 

現在は、敢えてノイズを生み出す機能を持ったモデル(両面音階)もありますが、これはかなり独特ですので、なかなか受け入れられない面もあると思っています。

 

しかし「猫も杓子も癒しオンリー」では楽器としての成長がありませんからね。

どこかの国で伝統的に存在してきた楽器ではありません。

おそらく私ほどこの楽器に向かい合っている製作者はいないと思います。

今後も迎合せずに独自の道を進み続けるのみですね。