音が狂った実例③

※本記事は二部構成となっています(おぼろげな記憶を主体に書いています)。

前半では、15音階タングドラムを使用していた Bさんの事例をもとに、「音が狂った経緯」と工房での対応についてまとめています。
後半では視点を変え、「演奏への向き合い方」というテーマから、上達・自己表現・演奏者と楽器との関係について掘り下げています。内容はやや長めですので、後半については概要を読んだうえで、興味のある方だけ読み進めていただいても問題ありません。


前半|音が狂った経緯と対応について

Bさんについて

今回ご紹介するのは、エレクトーン上級者の女性、Bさんによる15音階タングドラムの事例です。
Bさんは音楽経験が豊富で、タングドラムでは主に既存曲の演奏を楽しまれていました。


最初の購入とトラブル

最初にBさんが購入されたのは、アマゾンで販売されていた15音階モデルのタングドラム(中国製)でした。しかし、使用開始から1カ月も経たないうちに音程が狂ってしまい、クレーム対応として新品交換となります。
ところが、その交換品もほどなくして音が狂ってしまいました。


スガイ打楽器への相談と注文

その後、スガイ打楽器の存在を知り、ご相談をいただくことになります。
改めて15音階モデルを新規注文される際には、以前使用していた中国製モデルに近づけるため、音の配置のみをカスタム仕様としました。

納品後すぐ、Bさんから海岸で演奏している動画が「宣伝用に使ってください」との言葉と共に送られてきました。その映像を一見し、正直なところ「かなり打ち込んでいるな」という印象を受けました。
そこで、やんわりとではありますが、「もう少し優しく打つと、よりきれいな響きが引き出せますよ」というアドバイスをお伝えしました。

しかし、使用開始から約3カ月前後で、再び「音が狂った」との連絡が入ります。

 

工房まで楽器を持参していただき、状態を確認しました。その際、実際に演奏もしてもらいましたが、確かに音程は狂っており、記憶では3〜4音ほどが半音から1音程度ずれている状態でした。


修理方法の選択

15音階モデルの場合、溶接による修理は他の音にも影響が出やすいため、今回は音板の裏側を削り、質量を減らして音程を上げる方法を採用しました。

作り直しという判断

修理から数カ月後、再び音が狂ったとの連絡がありました。同じ方法では根本的な改善が難しいと判断し、作り直しを提案しました。

確か無償交換、もしくは金銭のやり取りがあったとしてもごくわずかな負担だったと思います。

耐久性を高めるため、上半分の素材を2.3mmから3.2mmへ変更を提案。ただし、この後の経過についても記録を残しておらず、音が再び狂った可能性も含め、記憶があいまいな部分があります。


原因についての考察

工房内での演奏は比較的優しいタッチでしたが、普段は浜辺での演奏や練習が中心だったそうです(ほぼ毎日)。

波音などに負けないよう、無意識のうちに強く打ち込んでいた可能性が高いです。


また、Bさんはより大きな音を出すため、打楽器専門店でマリンバ用の硬いマレットを購入し、使用されていました。こうした条件が重なり、音程の狂いにつながったのではないかと推測しています。


後半に入る前に|後半の概要

ここから後半は、Cさんという男性が登場します。

BさんとCさんは中国製の同じ商品を使用していました。

音が狂ったという事実そのものよりも、「なぜ同じように練習していても、結果に差が出たのか」「演奏における自己表現とは何なのか」といった、少し答えの出にくいテーマを扱っています。
BさんとCさん、二人の演奏者の姿を通して、上達・表現・エゴ、そして楽器との関係性について、工房の立場から感じたことをまとめています。


後半|演奏への向き合い方

上達と表現欲求

楽器は、練習すればするほど確実に上達します。
上達すれば人前で演奏したくなり、やがて自分なりの表現を加えたくなる。これはとても自然な流れで、音楽を続ける喜びそのものだと思います。


サークル構想のはじまり

Bさんは最初の楽器購入後、「工房でタングドラムサークルを主催したい」と相談を持ちかけてくれました。
既存曲の演奏に長けていたBさんの方法論を、ぜひ多くの人に共有してほしいと感じ、私は二つ返事で快諾しました。

Bさんの高度な演奏スタイル

Bさんの演奏スタイルは、主旋律を演奏しながら伴奏音も自分で設定するという、かなり高度なものでした。


Cさんのお話し

サークルの参加者の中には、Cさんもいました。
CさんもBさんと同じ中国製の同じタングドラムの所有者で、その時点で購入から約2年が経過していました。


サークルで起きた問題

サークルでは課題曲を選定して旋律演奏を行っていましたが、ここで一つ問題が生じます。
タングドラムはメーカーごとに音数や配置、キーが異なります。保有者に広く門戸を開いた結果、それぞれの楽器の仕様はバラバラでした。


歯欠け状態での演奏

そうした参加者には「ある音だけで演奏してください」と伝えるしかなく、いわば歯欠け状態での演奏になります。演奏する側にとっては、かなりつらい時間だったのではないかと思います。


工房からの提案と却下

私はBさんに対し、

・参加者の希望や状況に合わせて内容を柔軟に変えること

・複数人居るからこそ、ひとりではできない演奏を楽しむこと

・曲練習ではなく自分で音を組み立てる考え方を伝えること、

・「教える」場ではなく「楽しみ方を共有する」サークルにしてはどうか、

という提案をしました。
しかしBさんは、「それでは自分が力を発揮することが難しい」という理由から、これらを受け入れることはありませんでした。


評価を求める気持ち

演奏動画を送ってくれた経緯からも、おそらくBさんは、演奏を通して人から評価され、褒められたかったのだと思います。
普段の練習でも「遠くから人が立ち止まって聴いてくれる」と、嬉しそうに話していたことが印象に残っています。


表現とエゴの境界線

工房でサークル参加者に見本演奏をする際も、どこか自己主張の強さを感じました。これは私の主観ですが、エゴが前に出ているように感じられたのです。

上達すれば、「ここで盛り上げよう」「ここで感動を誘おう」と、意図的に表現することが可能になります。
それは演奏においてとても重要な観点であり、決して間違いではありません。

ただ、それは本当に紙一重で、そこにエゴが見え隠れすると、かえって聴く側が白けてしまう場合もあります。


Cさんの純粋な動機と演奏

ここで再びCさん登場。
Cさんは、YouTubeで中国人女性がタングドラムを演奏している動画を見て、「自分もこの楽器でこの曲を弾きたい」と強く思ったそうです。

楽器を購入し、楽譜も分からないまま、動画を見ながら手順をそのまま真似して覚えました。

さらに自分が鳴らしている音が何なのかも、どれが何の音かも全く把握していませんでした。

それでも、Cさんの演奏はとても優しく、美しく、聴いていて心が落ち着くものでした。
そこにはエゴのようなものは一切感じられず、ただ「この曲を演奏できることが嬉しい」という気持ちが、そのまま音になっているように感じました。


二人の対比から見えるもの

同じ楽器を所有し、ほぼ毎日練習していたBさんとCさん。
Bさんの楽器は比較的短期間で音が狂い、Cさんの楽器は購入から2年ほど経過していても、音の狂いはほとんどありませんでした。

これは、演奏における自己表現や楽器との向き合い方が表れた、とても象徴的な例だと感じています。
どちらが良い、悪いという話ではありません。


工房としてのまとめ

今回の事例を通して、工房として改めて感じたのは、楽器は単なる道具ではなく、演奏者の向き合い方や気持ちを映し出す存在なのかもしれないということです。
たくさんの人に音を届けようとして強く打てば良い音が出るわけでもなく、上達や表現への意識が高まるほど、知らず知らずのうちに楽器へ負担をかけてしまうこともあります。

一方で、技術的には未整理であっても、純粋な喜びから生まれる音が、結果として楽器にも優しい場合もある。


どちらが正解ということではありませんが、演奏と楽器は切り離せない関係にあり、その間にある「姿勢」や「意識」もまた、音や耐久性に影響しているように感じます。

 

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