音が狂った実例②

― 演奏環境と奏法が与える影響について ―

使用者と使用状況

今回の実例は、Aさん(男性)からの相談です。
Aさんは楽器経験はなく、当工房の P8(プロパノータ/8音階) を使用していました。

使用環境は、バンドでの使用。

バンドと言っても数人編成のものではなく、もっと大所帯の「楽団」に近いようです。
音楽監督が存在し、それなりに使う音やフレーズがあらかじめ割り振られている ということでした。

Aさんも、その指示に従い、特定の音やフレーズを担当して演奏していたとのことです。

10人前後の大編成ですからマイク使用が前提としても、その環境の中ではどのように響いているのか私もちょっとわかりません。


経過①:購入から約1年後の再チューニング

 

購入からおよそ1年が経過した頃、Aさんから再チューニングの依頼がありました。

計測の結果、
8音中5音に音程の狂いが確認されました。
(当時の計測記録は残っており、数値としての確認も可能です)

溶接による再調整を行い、楽器は元の状態に近い形で復帰しました。


経過②:さらに約1年後、再び同様の症状

 

その約1年後、再度調整の依頼がありました。

再計測したところ、
前回とほぼ同じ傾向で音程が下がっていることが確認されました。

特徴的だったのは、
「ミ」の音の下がりが最も大きいという点です。
これは1回目・2回目ともに共通していました。

「レ#」近くまで低くなっていました。

プロパノータを私の想定する向きで演奏すると、右利きの場合「ミ」の音が一番音を出しやすい。

つまり手の位置的に最も音が出しやすい(時計であらわすと3時の位置に「ミ」があります)。

再溶接による対応は可能でしたが、
同じ使われ方を続ける限り 同様のことが繰り返される可能性が高い ことをAさんにお伝えしました。


対応方針の転換

 

そこで今回は、単なる再調整ではなく、

  • 全体のキーをひとつ下げる
    という処置を提案しました。

 

結果として、楽器全体の音を下げる方向で対応することになりました。

この経験は、その後のアフターフォロー方針を考える上で、大きな転機となりました。

  • 音を「元に戻す」だけではなく

  • 「下げる」という選択肢を明確に持つこと

  • さらに
    「上半分を取り換える」という構造的な対応案

 

こうした考え方は、この実例をきっかけに整理されていきました。


演奏動画から見えたこと

 

その後、Aさんから演奏動画が送られてきました。
それを踏まえ、いくつかのアドバイスを行いました。

特に気になったのは、
速いフレーズにおける連打です。

速いフレーズではどうしても手さばきのスピードが上がり、
結果として 打つ瞬間の強さも増してしまう 傾向があります。

そのため、

  • 楽器の向きを変える

  • 手を前後に大きく動かすのではなく

  • 手首の横方向の運動で打てる向きを探してみる

 

手首を中心とした左右運動は、肩から動かす前後運動よりもかなり楽なので、こうした奏法が可能になる 楽器ポジションの見直し を提案しました。


使用者からの重要な情報

 

Aさんからは、事前に次のような情報もありました。

「ある曲で、速いフレーズの中で
同じ音を連続して打つ演奏がありました。
それが楽器へのストレスになったかもしれません」

この指摘は、非常に示唆的でした。

確かに、タングドラムにおいて
同一音の高速連打は、あまり推奨できる奏法ではありません。

しかし一方で、
そうしたフレーズが 実際の音楽の中で求められる場面がある のも事実です。


製作者としての課題

 

今回の実例は、

  • 使用者の問題

  • 奏法の問題

として片付けられるものではありません。

音楽の現場で起こり得る演奏要求に対して、
どこまで楽器として応えられるのか

これは製作者側が引き受けるべき課題でもあると考えています。

この実例は、
現在の設計やアフターフォロー方針を見直す
ひとつの重要な材料となりました。