タングドラムの工房品と格安品、どちらが正解なのか??
タングドラムを買おうとすると、だいたい最初に次の問題にぶつかります。
工房で作られた高価なものを買うべきか。
Amazonなどで売られている格安品を買うべきか。
そして製作者である私にこれを質問すると、当然ながら「工房品を買ってください」という答えが返ってきます。
なぜなら私は工房品を作って売ることで生活しているからです。
ここで「格安品の方がおすすめですよ」と答え始めたら、それは誠実な製作者というより、単に自信のない人です。
とはいえ、工房品を作っているという理由だけで「工房品こそ正義であり、格安品は金属製のゴミです」と言うつもりもありません。
困ったことに、格安品でも普通にきれいな音が出るからです。
先に結論を言うと、最初は格安品でもいい
まずはタングドラムがどんな楽器なのか試してみたい。
長く続けるかどうかも分からない。
失敗しても、なるべく傷を浅く済ませたい。
こういう場合は、格安品でよいと思います。
むしろ合理的です。
格安品には15音モデルも多いため、メロディー演奏をしてみたい人にも向いています。
安いので何台か揃えることもできます。
音階の違うものを買ったり、部屋ごとに置いたり、ひとつを鍋敷きとして運用したりすることも可能です。最後の使い方はおすすめしません。
一方で、
一台を長く使いたい。
少し変わった音が欲しい。
作った人の考え方まで含めて選びたい。
壊れたり音程がずれたりしたとき、相談相手が欲しい。
こういう人には工房品が向いています。
要するに、
低いリスクで試したいなら格安品。
楽器との長期的な関係を求めるなら工房品。
いったん結論はこれです。
本来ならここで記事を終えても構いません。
しかし、それでは製作者がわざわざ長文を書いた意味がありませんので、もう少し続けます。
「工房品」という言葉には、特に品質保証が付いていない
工房品と聞くと、なんとなく良さそうです。
職人が一台ずつ丁寧に作り、こだわりぬいた逸品というイメージですか?
実際の私は、完成した楽器を眺めながら調律のズレがないか心配しています。
工房品といっても、統一された基準があるわけではありません。
ピアノやギターであれば、楽器としてある程度共有された構造や評価基準があります。
しかしタングドラムは、工房ごとに考え方がかなり違います。
音数も違う。
音階も違う。
材料も違う。
余韻の考え方も違う。
見た目も違う。
「工房で作った」という一点以外、ほとんど共通していないことすらあります。
したがって、
工房品だから良い。
格安品だから悪い。
という分類は、思ったほど役に立ちません。
これは「個人経営の飲食店だからチェーン店よりうまい」と言っているようなものです。
ものすごくうまい個人店もありますし、何を食べても不安になる個人店もあります。
工房品を選ぶ場合は、「工房品」という看板ではなく、その工房が実際に何を作っているかを見る必要があります。
ネットで楽器を買うという、冷静に考えると無謀な行為
タングドラムは、ほとんどがネットで販売されています。
つまり多くの場合、実物に触れず、動画の音だけで購入を決めます。
冷静に考えるとなかなか大胆です。
音を出すための道具を、実際の音を確認せずに買うのです。
料理で言えば、写真だけ見て味を決めるようなものです。
動画の音は、録音する機材や場所で大きく変わります。
高性能なマイクを使い、響きのよい部屋で録音し、音量や低音を整えれば、実物よりも魅力的に聞こえることがあります。
反対に、スマートフォンでそのまま録音すると、実物より貧弱に聞こえることもあります。
スガイ打楽器の動画は、基本的にノーマイクのスマートフォン撮影です。
実物よりも劣って聞こえているという自覚があります。
これは誠実さのアピールではありません。
単に録音を凝る技術と気力が足りないという面もあります。
とにかく、格安品でも工房品でも、ネットで購入する以上は多少のギャンブルになります。
それなら、まずは負けたときの損失が少ない格安品を買う。
これはかなり正しい判断です。
格安品でも、音は普通にきれいである
ここは工房製作者として非常に言いづらいのですが、格安品でも音はきれいです。
少なくとも「安いから聞くに堪えない」ということはありません。
工房にも、格安品と呼べるタングドラムが3台あります。
そのうち2台は、音がきれいに整っています。
音程も大きく外れていません。
響きも素直です。
製作者の立場から見ても、「これはひどい」とは言えません。
しかし、私はその2台を特に鳴らしたいとは思いません。
ここから話が面倒になります。
きれいな音と、鳴らしたくなる音は違う
音程が合っている。
音がきれいに響く。
どの音も均一に鳴る。
製品としては優秀です。
ところが、楽器として面白いかどうかは別問題です。
少し雑味がある。
音ごとに表情が違う。
叩く位置や強さによって、反応が変わる。
毎回まったく同じ音にはならない。
そういう部分がある方が、何度も触りたくなることがあります。
もちろん、これは「音程が狂っている方が芸術的だ」という話ではありません。
調律に失敗した楽器を前にして、「この不安定さこそ個性です」と言い始めたら、それは個性ではなく言い訳です。
ただ、すべてが均一で、きれいに整っていれば、それだけで魅力的な楽器になるわけでもありません。
プロパノータの音を、私は20年近く聴いています。
それでも、いまだに飽きていません。
製作者が自分の商品について「20年聴いても飽きない」と言っているので、かなり割り引いて受け取った方がよいでしょう。
自分の子供を「この子は本当に面白いんです」と紹介している親と、構造的には同じです。
それでも、私が工房品に感じている価値はここにあります。
格安品より音がきれいかどうかではない。
何度も鳴らしたくなる理由があるか。
そこに作り手の考えや、その楽器なりの表情があるか。
工房品を選ぶ意味は、むしろその辺りにあると思います。
修理してもらえると思ったら、そうでもない
工房品の利点としてよく挙げられるのが、修理や再調整です。
格安品の場合、修理に対応する販売元はほとんどないでしょう。
1万円前後で売った楽器を、数年後に預かり、分解し、調律し直し、返送する。
これを丁寧にやっていたら、販売元はかなり早い段階で経営について考え直すことになります。
したがって、格安品は基本的に「壊れたら買い替える商品」です。
一方、工房品なら製作者に相談できる可能性があります。
ただし、ここにも罠があります。
工房品だからといって、必ず修理や再調整をしてもらえるわけではありません。
特に海外製の場合、問い合わせ先が分からなかったり、海外へ送る送料の方が修理費より高くなったりします。
有名メーカーの製品でも、タングドラムの再調整には対応していないことがあります。
そのため、長く使いたい人は購入前に確認した方がよいです。
「工房品だから安心」ではなく、「この工房は購入後に何をしてくれるのか」を見る必要があります。
派手な模様があれば高級なのか
工房品には、装飾へかなり手をかけたものがあります。
特にスピリチュアルな雰囲気を重視したタングドラムでは、マンダラ模様や細かな装飾が入っていることがあります。
格安品にも、同じような模様が入った製品はあります。
工場で大量に同じ模様が作られているため、見る人によっては豪華に感じるでしょう。
私には、逆に安っぽさが強調されているように見えることもあります。
もっとも、これは装飾を作らない製作者の負け惜しみである可能性も否定できません。
スガイ打楽器でも、以前はマンダラ模様を入れたモデルを作ったことがあります。
ただし、それは装飾を希望した方のためのカスタムでした。
今は、積極的にその方向へは向けていません。
装飾が多いほど、楽器として価値が高くなるとは考えていないからです。
もちろん、見た目を楽しむことも楽器の価値です。
ただ、模様の複雑さと音の魅力は、別々に考えた方がよいと思います。
結局、ほぼフィーリングで買うしかない
ここまで、格安品と工房品の違いについて長々と書いてきました。
そして最終的な結論は、
ある程度はフィーリングで決めるしかない
です。
ひどい結論です。
比較記事を最後まで読んだ結果、「最後は勘です」と言われるのですから、読者としては腹が立つかもしれません。
しかし実際、タングドラムを大量に並べた店へ行き、すべてを同じ条件で試してから選ぶことは、ほぼできません。
動画を見て、説明を読んで、作り手の考えを知り、最後は「なんとなくこれがよさそう」と決めることになります。
そして、選んだ楽器を使いながら、自分なりの正解にしていく。
楽器選びとは、だいたいそういうものです。
まず試したい人は、格安品で構いません。
一台を長く使いたい人、音の個性や作り手の考え方まで含めて選びたい人には、工房品をおすすめします。
製作者である私が勧めるのは、もちろん工房品です。
ただし、工房品を買えば成功し、格安品を買えば失敗するわけではありません。
重要なのは価格の高い安いではなく、その楽器を手にした後に何をしたいかです。
上手に演奏したい。
人前で使いたい。
何台も集めたい。
一人で静かに音を楽しみたい。
どれでもよいと思います。
私の理想は、この楽器が入り口になって、その人なりの音楽世界が少し広がることです。
もっとも、いきなり「音楽世界を広げよう」とすると話が大きくなりすぎます。
まずは一音鳴らして、「なんかいいな」と思えること。
結局、それくらいが一番大事なのかもしれません。