タングドラムは、曲を演奏する楽器なのか。
それとも適当に鳴らす楽器なのか
タングドラムの使い方は、大きく分けると二つあります。
ひとつは、楽譜に倣って曲を演奏する使い方。
もうひとつは、そのときの気分で感覚的に音を鳴らす使い方です。
言い換えるなら、
曲を弾きたい人と、音を浴びたい人。
だいたいこの二種類です。
もちろん、購入前にどちらかへ完全に所属する必要はありません。
「私はメロディー派です」と宣誓書へ署名する必要もありませんし、感覚派になったからといって、今後一生楽譜を見てはいけないわけでもありません。
ただ、自分はどちらに少し強く惹かれているのか。
その程度は、ぼんやり考えておいた方がよいと思います。
なぜなら、この違いによって選ぶべき楽器がかなり変わるからです。
曲を演奏したいなら、音数が足りないと話にならない
メロディーを優先したい人にとって、最も重要なのは音の数です。
当たり前の話ですが、楽器に存在しない音は出せません。
気合いでも出ません。
「ここは表現力で補います」と言われても、ファの音がない楽器からファは出ません。
したがって、弾きたい曲がある人は、その曲に必要な音が入っているかを確認する必要があります。
タングドラムには、6音、8音、11音、15音など、さまざまなモデルがあります。
曲の演奏を重視するのであれば、基本的には音数が多い方が有利です。
特に15音モデルは、ある程度メロディーを弾きたい人にとって選びやすいでしょう。
少なくとも6音しかない楽器を前にして、「これで好きな曲を何でも弾こう」と考えるのは、かなり無理があります。
感覚的に鳴らすなら、音数は多ければよいとは限らない
一方で、曲を演奏することよりも、そのときの気分で自由に鳴らしたい人もいます。
今日の気分で一音鳴らす。
同じ音を何度か繰り返す。
隣の音へ移り、また戻る。
こうした使い方であれば、音数はそれほど多くなくても構いません。
むしろ、音が少ない方が迷わずに済むこともあります。
ただし、ここで多くの人が次のように考えます。
「でも、音数は多い方が、いろいろできて得なんじゃないの?」
もっともな疑問です。
たくさん音があれば、曲も弾ける。
即興演奏もできる。
使わない音は無視すればよい。
それなら多い方が完全上位互換ではないか。
そう思うのは自然です。
しかし、音数が多いことには意外な落とし穴があります。
選択肢が増えることで、かえって感覚的には鳴らしにくくなることがあるのです。
この点は、タングドラム選びではかなり重要だと思っています。
ただ、ここで詳しく書き始めると、この記事が音数についての記事へ乗っ取られます。
ですので、その話は別の記事に譲ります。
おそらく、そちらの方が重要な記事になる可能性すらあります。
「初心者でも簡単」という言葉は、半分正しい
タングドラムの宣伝では、よく次のような言葉を見かけます。
「初心者でも簡単」
「楽器経験がなくても、すぐに楽しめる」
私も以前は、同じようなアピールをしていました。
そして、この言葉が完全なウソだとは思いません。
タングドラムは、叩けば音が鳴ります。
ギターのように弦を正確に押さえる必要もありません。
管楽器のように、そもそも最初の一音が出ないということもありません。
ピアノと同じく、叩けば何かしらの結果が返ってきます。
そういう意味では、確かに簡単です。
しかし、
音を出すことが簡単である
ということと、
自分の思いどおりに演奏することが簡単である
ということは、まったく別の話です。
ボールを蹴ることは誰にでもできますが、思った場所へ正確に蹴るのは簡単ではありません。
包丁で野菜を切ることはできますが、だからといって急に料理人になれるわけでもありません。
タングドラムも同じです。
叩けば音は鳴ります。
ただし、その音を自分の思い描いた順番で鳴らし、心地よい流れを作り、曲としてまとめるとなると、別の難しさがあります。
「誰でも音を出せる楽器」ではあります。
しかし、「誰でも思いどおりに演奏できる楽器」ではありません。
タングドラムは、意外と万能ではない
タングドラムは、どのような場面にも対応できる万能楽器ではありません。
音域は限られています。
半音がないモデルも多いです。
音の配置も、ピアノのように順番に並んでいるとは限りません。
音量もそれほど大きくありません。
合奏の中では埋もれることもあります。
曲によっては、必要な音が足りません。
それでも、販売ページでは万能に見えることがあります。
初心者でも簡単。
癒やしにも使える。
演奏にも使える。
瞑想にも使える。
子供にも大人にも使える。
インテリアにもなる。
もちろん、実際に幅広い使い方はできます。
ただし、どの用途でも同じように優秀というわけではありません。
タングドラムが得意なこともあれば、苦手なこともあります。
その得意分野と、自分がやりたいことが近ければ、楽しい楽器になります。
反対に、そこが大きくずれていると、「思っていたものと違った」ということになります。
購入前に、演奏している自分を少しだけ想像する
そこで大切になるのが、購入後にどのように使いたいのかを考えることです。
好きな曲を演奏したいのか。
一音ずつ、ゆっくり鳴らしたいのか。
即興的に音をつなげたいのか。
人前で演奏したいのか。
一人で静かに楽しみたいのか。
ほかの楽器と一緒に使いたいのか。
明確な答えがなくても構いません。
「暗い部屋で、ゆっくり鳴らしてみたい」
「簡単な曲を弾いてみたい」
「机の上に置いて、時々触りたい」
その程度でも十分です。
むしろ、タングドラムに興味を持った時点で、頭の中には何らかの場面が浮かんでいるはずです。
演奏動画を見て、自分もやってみたいと思った。
きれいな音を聴いて、部屋で鳴らしてみたいと思った。
誰かの演奏に憧れた。
そのぼんやりしたイメージこそが、楽器を選ぶ手がかりになります。
スペック表を何時間眺めても、自分が何をしたいのかが分からなければ決められません。
逆に、使いたい場面が少し見えていれば、音数や音階、サイズも選びやすくなります。
結局、最初に決めるのは「何を弾くか」ではない
曲を弾くのか。
感覚的に鳴らすのか。
最初にどちらかへ完全に決める必要はありません。
実際には、曲を弾いていた人が即興演奏を始めることもあります。
感覚的に鳴らしていた人が、後から好きな曲を弾きたくなることもあります。
人間の気分は変わります。
ただ、自分が最初にどちらへ惹かれているのかは、考えておいた方がよいでしょう。
メロディーを弾きたいなら、必要な音数があるものを選ぶ。
感覚的に楽しみたいなら、音数の多さだけで決めない。
そして、「初心者でも簡単」という言葉だけを信じて、何でもできる楽器だとは考えない。
この三つを押さえておけば、購入後の大きなズレは減らせると思います。
せっかくタングドラムに興味を持ったのですから、買った直後に数回鳴らして終わるのではなく、できれば長く音と付き合ってほしいと思っています。
さらにその先で、自分なりの音楽の楽しみ方へつながれば、製作者としてうれしいです。
もっとも、最初から「新しい音楽世界を切り開こう」と意気込む必要はありません。
まずは一音鳴らしてみる。
もう一度鳴らしたくなる。
それくらいから始まれば、十分なのだと思います。