タングドラム両面音階 

  《プロパノータPW》 

(このページを読むと分かること)

このページでは、両面音階モデル「PW」がどのような試行錯誤を経て生まれたのか、その背景を詳しくご紹介しています。
なぜ両面なのか、なぜノイズが生まれたのか。
PWという楽器の考え方を知ることで、ご自身に合った一台かどうかを、じっくり判断していただけます。

【 他に類を見ないタングドラムを目指して 】

私はこの楽器が世に誕生し始めた黎明期より製作し続けています。

何度かHPでも言及してきましたが、製作当初よりこの楽器が「癒し」や「ヒーリング」的な立ち位置で扱われることは当然のように予想していました。

そのメリットを否定するつもりは毛頭ありませんが、その点のみが注目されることには抵抗があり、楽器としての可能性を狭めてしまうと感じていました。

さらに「癒し」の方向で進めばいずれ他メーカーとの違いが無くなり、埋もれてしまうという危機感も持っていました。そのような視点から製作当初より「自分だけのオリジナル」の開発にも目を向けていました。とは言え、当時の優先事項は「いかに音の数を増やし楽器としての完成度を高めるか」ということでした。

結果的に音板を重ねることで生まれたタイプもあり、最優先事項はクリアできましたが、常に念頭にあった「理想の音」にはなかなか着手できないまま時間が過ぎていきました。


【 目標はシタール 】

タングドラムで取り入れたいと考えていた響きは、次の二つの楽器から影響を受けています。

ひとつはシタールの、弦同士が共鳴して生まれる“揺れるような余韻”
主旋律の背後で微かに揺れ続け、音に奥行きを与える共鳴音。

もうひとつはスティールドラムの、金属が薄く歪むことで生まれる独特の倍音。
金属のしなりによって生じる倍音のにじみや癖のある響きに魅力を感じていました。
(私はスティールドラムの音の発生原理を「金属を意図的に歪ませて生まれる音」と考えています。)

これらの特徴をタングドラムの音作りに取り入れたいと思っていました。


【 上下分割実験 】

昔のブログをひも解くと、「上下分割方式」は2011年に着手していたようです。

当時のブログ

しかし当時の上下分割式は「理想の音」を目指していたものではなく、様々な試みを通じての音の変化を知ることが主な目標だったと記憶しています。

記憶をたどると、理想の音のイメージは過去も現在も変わっていません。

それは音板がレイヤー構造になったモデルP12などで実現した「後から音が浮かび上がる」、正にシタールの共鳴音のようなものでした。

その音の実現のためのアイデアは、内部に共鳴弦なやバネを張り巡らせエフェクト的な音の成分を混在させるというものです。

今もって完成はしていませんが、時折思い出しては実験し失敗しています。


【 偶然の産物? 】

正直なところ、なぜ現在のPWモデルが誕生したのかはっきりとは憶えていません。いろいろな試作をしていましたからね。

その時には試作を効率よく繰り返すために、上下を溶接せず中央のボルトで締めて固定する方式を採用することもありました。
同じ素材を繰り返し使い、条件を整えて比較検証を行うためです。

実験を通して確かになったことは、あるスリットと同じ音が入るとお互いの音が揺らぎ合い、その共鳴が柔らかで、まるで水の中で響いているような感覚があるということです。

両面音階もその効果を取り入れることでただのノイズが「揺らぐノイズ」へと変換していくのです。

作業を続ける中で、このボルト固定方式により接合部にごくわずかな隙間が生じることがあり、演奏時に上下板が振動に応じてわずかに触れ合い、揺れを持ったノイズが加わることに気づきました。
このノイズは、これまでの方法では得られなかったもので、当然頭の中にもイメージされたことはありませんでした。

しかしそのノイズはシタールの共鳴の揺れや金属の歪みによる倍音のにじみを自然な形で思い起こさせるものでした。

予め狙った機構ではありませんでしたが、目指していた音の方向性に合っていたため、この特性を活かす形で研究を進め、現在のPWモデルの構造へとつながるものとなったのです。


【 好みが分かれますが 】

PWモデルのノイズ共鳴は、複雑な仕組みではなく、上下板のわずかな隙間や揺れといった金属の自然な性質を利用した構造です。
製作当初から求めてきた「癒しだけでなく、打楽器的な響きを併せ持つタングドラム」という方向性を形にするうえで、この気づきは大きな転機となりました。

とはいえ、ノイズについては一般的に好みが分かれます。特にタングドラムに癒しを求めている方からは「無い方が良い」という意見も少なくありません。
私自身も打楽器を始めたばかりの頃は、ノイズは邪魔なものだと感じていた時期もありました。
それでも、今のPWモデルが持つこの響きには、金属楽器としての自然な魅力が確かに存在していると感じています。

私は「打楽器的」、「ノイズ」などと繰り返し発信していますが、基本的にはタングドラムの「癒し的サウンド」を否定するものではありません。

「ノイズ」の音が魅力的であったとしても、常にノイズが鳴っていてはやはりうるさい存在でしかありません。

このモデルの魅力は「癒し」と「ノイズ」を簡単に切り替え可能な点です。

どちらのサウンドも引き出し方次第で大きな存在感を示すものと信じています。


【 音の特徴 】

【 共鳴とノイズが重なりう合う 】

PWの音の最大の特徴は、「揺れるノイズ」を伴った響きです。
ここで言うノイズとは、単なる雑音ではなく、音の中に溶け込む成分として存在するものです。

PWでは、上下の金属板が完全に固定されておらず、
演奏時の振動によってごくわずかに影響し合います。
この微細な動きによって、上下の鉄が微振動レベルで触れ合い、
通常のタングドラムでは生まれない成分が加わります。

もしこれが「ぶつかる音」だけであれば、
耳障りなノイズで終わってしまうでしょう。
しかしPWでは、表面と裏面にそれぞれ切り込まれた音が先に共鳴し、
その響きの揺らぎに、後からノイズが重なる構造になっています。

その結果、
まず音がわずかに揺れ、
その揺れの中に、にじむようなノイズが溶け込む。
そうした順序を持った響き方になります。


【 音が定まらないことによる奥行き 】

PWの音は、はっきりと一点に定まるというより、
わずかに揺れながら存在し続けます。

この揺らぎは、
シタールの共鳴音や、
薄く歪んだ金属が生む倍音のにじみに近い感覚を持っています。

音程そのものが崩れるわけではありませんが、
音の輪郭が固定されすぎないため、
聴いている側には、音が空間の中で呼吸しているように感じられます。

単音で鳴らしても情報量が多く、
余韻の中に表情が残り続けるのがPWの特徴です。


【 ノイズがあるからこそ繊細に 】

「ノイズがある」と聞くと、
荒々しい演奏や強い打撃を想像されるかもしれません。

しかしPWの場合、
強く叩きすぎるとノイズ成分が前に出すぎてしまい、
音のバランスが崩れます。

むしろ、
弱いタッチ、
間を取った演奏、
余韻を聴くような叩き方のほうが、
このモデルの良さがはっきりと現れます。

ノイズがあるからこそ、
奏者は自然と音量やタッチに意識を向けるようになり、
結果として演奏はより繊細になります。


打楽器的であり音響的でもある響き

PWは、「癒しの楽器」としてのタングドラムとは少し異なる位置にあります。

リラックスした響きの中に、
金属楽器らしいざらつきや揺れが含まれており、
打楽器的な要素と音響的な要素が同時に存在しています。

ノイズを排除するのではなく、
音の一部として受け入れることで、
タングドラムの表現領域を少し外側へ押し広げたモデルだと言えます。


【 このような方へ 】

 PWが向いている人

・音の「揺れ」や「ざらつき」を表情として楽しめる方
・均一で整った音より、変化のある響きに惹かれる方
・強弱や間合いを意識した、静かな演奏が好きな方
・タングドラムを打楽器的・音響的な楽器として捉えている方
・決まったフレーズより、その場の感覚を大切にしたい方

PWは、音をコントロールするというより、
金属の反応を受け取る感覚に近い楽器です。
音に身を委ねるような関わり方が合う方には、
非常に奥行きのある響きを返してくれます。

PWが向いていない人

・澄んだ単音や、濁りのない音色を求めている方
・ノイズ成分を「雑音」として強く感じてしまう方
・はっきりした音程でメロディを演奏したい方
・強く叩いて気持ちよく鳴らす打感を重視する方
・癒しを目的とした、均一で安定した音を求める方

PWは、一般的な「癒し系タングドラム」とは方向性が異なります。
そのため、明確で整った響きを期待している場合には、
P6やP12のほうが合っていると感じられるかもしれません。