タングドラム6音階 

  《プロパノータP6》 

(このページを読むと分かること)

このページでは、6音階モデル「P6」がどのような試行錯誤を経て生まれたのか、その背景を詳しくご紹介しています。
なぜ8音ではなく6音なのか、なぜペンタトニックを採用したのか。
P6という楽器の考え方を知ることで、ご自身に合った一台かどうかを、じっくり判断していただけます。

【 ドレミファソラシドから 】

タングドラムの製作を始めた当初、私がまず目指したのは、8音構成の「ドレミファソラシド」をきちんと形にすることでした。
当時の私にとって、音階の知識といえば、学校の授業で習った「ドレミファソラシド」だけだったからです。

タングドラムが世に出始めた黎明期、多くのメーカーはペンタトニックスケールを採用し、即興性を重視した設計を行っていました。
その流れを知りつつも、私は「できれば曲として演奏できる楽器のほうが良いのではないか」と考えていました。

旋律を追い、フレーズとして音楽を組み立てられること。
その可能性をタングドラムにも持たせたいと考えたとき、ドレミファソラシドは、最も自然で分かりやすい出発点でした。
当時は、それで十分だと、ごく素直に思っていたのです。


【 演奏を重ねる中で見えてきた限界 】

しかし、製作と演奏を繰り返すうちに、少しずつ違和感が生まれてきました。
ドレミファソラシドは整った音階である一方、実際に使ってみると、表現できる世界が思いのほか限られていたのです。

何らかの曲を演奏しようとすると、たいていの場合、音が足りなくなります。
楽譜に従って演奏しようとすればするほど、その窮屈さははっきりしてきました。

また、即興演奏においても印象的な違和感がありました。
ドレミファソラシドはいわゆるメジャースケール、明るい音階のはずです。
それにもかかわらず、タングドラムで即興的に演奏すると、どこか暗い印象が残ることが多かったのです。

音階としては間違っていない。
それでも、音色と組み合わさったときに生まれる雰囲気が、自分の感覚と噛み合わない。
そのモヤモヤした感情は、今でもよく覚えています。

この違和感は、「もっと音が必要だ」という単純な不満ではありませんでした。
むしろ、タングドラムという楽器の持つ魅力を、十分に引き出せていないのではないかという疑問に近いものでした。


【 半音階モデルと、方向性の模索 】

演奏の幅を広げるため、次に取り組んだのが半音階のモデルです。
音数を増やすことで、曲演奏の可能性は確かに広がりました。

一方で、音が増えるほど、演奏時の選択は複雑になります。
「何でも弾ける」状態が、必ずしも「気持ちよく弾ける」状態ではない。
そのことも、製作と演奏を重ねる中で、次第にはっきりしてきました。

この頃から私は、単に音数を増やすのではなく、タングドラムにとって本当に心地よい音階構成とは何かを考えるようになります。


【 ペンタトニックスケールを理解する 】

転機となったのは、音数を抑えた半音階モデルを製作していた時期でした。
そこで改めて、ペンタトニックスケールという音階を、理論と実践の両面から見直すことになります。

不協和音が生じにくく、音を選び過ぎなくても自然な流れが生まれる。
その特性は、タングドラムという楽器の性格と、驚くほどよく合っていました。

重要だったのは、「弾きやすい」という点だけではありません。
演奏している本人が、音の選択に迷わず、リズムや音の重なり、雰囲気そのものに集中できること。
考え込まずに、音楽に身を委ねられること。
その感覚こそが、タングドラムの魅力なのだと、はっきり意識するようになりました。


【 メロディよりリズムと音の雰囲気へ 】

もともと私は、打楽器的な感覚を大切にしてきました。
楽譜に従って細かなメロディを正確になぞる演奏よりも、リズムや音の雰囲気を感じながら演奏するほうが、自然に音楽と向き合えます。

この感覚と、ペンタトニックを基盤とした音階構成が結びついたとき、方向性が明確になりました。
音数は多くなくていい。
むしろ、迷わず叩ける音だけがあるほうが、演奏は深くなる。

そうして行き着いたのが、6音という構成でした。


【 6音階モデル「P6」という答え 】

こうした試行錯誤の末に完成したのが、6音階モデル「P6」です。

音階には琉球音階をベースとして採用しています。
音の響きから自然に情景を思い描きやすく、メジャー・マイナーのどちらの感覚にも寄り添える柔軟さがあります。

構成は、あくまでシンプルです。
だからこそ、リズム的な演奏も、直感的なフレーズも無理なく受け止めてくれます。
音を増やすことで広がる可能性ではなく、音を絞ることで生まれる深さ。
P6は、その考え方を形にしたモデルです。

現在では、このP6が私の製作するタングドラムのスタンダードとなっています。
はじめて手に取る方にも、長く向き合いたい方にも、安心して勧められる一台です。


【 音の特徴 】

【 音の輪郭がはっきりしています 】


タングドラムは構造上、ひとつの音を鳴らすと楽器全体が共鳴し、他の音の成分も自然に混ざり合います。
この共鳴は魅力である一方、音の数が多くなるほど、意図しない響きが重なりやすくなります。

P6は6音階というシンプルな構成のため、余計な共鳴が起こりにくく、ひとつひとつの音が前に出やすいのが特徴です。
アタックが明確で、叩いた瞬間の反応をしっかり感じ取ることができます。

そのため、旋律を正確に追いかけるメロディ演奏には向きませんが、
音と音の間や余韻を活かした即興的な演奏では、非常に扱いやすいモデルです。


【 音が「濁らない」安心感 】


ペンタトニックベースの音階構成により、どの音を組み合わせても不協和音になりにくい設計になっています。

特にP6は音数が少ない分、
強く叩いても、連続して叩いても、音が濁りにくく、
無意識に手を動かしても破綻しない安心感があります。


【 リズムが自然に前に出る音設計 】


P6は、フレーズを作ろうと意識しなくても、自然とリズムが立ち上がる音の配置になっています。

一定のパターンを刻むだけでも音楽として成立しやすく、
叩く強さや間の取り方によって、表情が大きく変わります。

打楽器的なアプローチを大切にしたい方にとって、非常に相性の良いモデルです。


【 奏法による音色変化が分かりやすい 】


P6は音の輪郭がはっきりしているため、奏法の違いが音色の違いとして分かりやすく現れます。

ノーマルな演奏はもちろん、付箋を使ったエレキ的な奏法では、
音程感や余韻が大きく変化し、まったく別の楽器のような印象になります。

音数が少ない分、こうした変化が埋もれにくく、
奏者の工夫がそのまま音として表れやすい点もP6の特徴です。


【 シンプルだから長く付き合える 】

P6は、派手さや情報量の多さで勝負するモデルではありません。
その分、音の芯が分かりやすく、叩くたびに「音と向き合っている感覚」を得やすい楽器です。

シンプルな構成だからこそ、
奏者のリズム感、間合い、タッチがそのまま音に反映され、
長く付き合うほどに、表情が少しずつ変わっていきます。


P6は、音を増やすよりも、音と向き合う時間を大切にしたい人のためのタングドラムです。