(このページを読むと分かること)
このページでは、レイヤー構造モデル「P12」がどのような試行錯誤を経て生まれたのか、その背景を詳しくご紹介しています。
いくつかのメーカーで同じようにレイヤー構造を取り入れているところもありますが、音の作り方は当工房とは違いがあるようです。
音板を2重にしたことのアイデアや特性を知ることで、ご自身に合った一台かどうかを、じっくり判断していただけます。
(このページを読むと分かること)
このページでは、レイヤー構造モデル「P12」がどのような試行錯誤を経て生まれたのか、その背景を詳しくご紹介しています。
いくつかのメーカーで同じようにレイヤー構造を取り入れているところもありますが、音の作り方は当工房とは違いがあるようです。
音板を2重にしたことのアイデアや特性を知ることで、ご自身に合った一台かどうかを、じっくり判断していただけます。
P12の開発は、8音モデルを製作していた時期に感じた、ひとつの明確な限界から始まりました。
音の少なさです。
誰もが知っているドレミファソラシドの8音構成はわかりやすいというメリットがありました。
しかし実際の演奏では、どうしても頭打ちになる場面が出てきます。
「もう少し音があれば」と感じる瞬間が増え、
どのように音数を増やすべきかを真剣に考えるようになりました。
他メーカーが即興演奏に適しているペンタトニックスケールを採用している中、
当時の私は「メロディ演奏」もできるモデルを目指していました。
最初に考えたのは、非常に単純な方法でした。
打面上の空いているスペースを使うこと、
側面に音を配置すること、
あるいは音板そのものを小さくして数を増やすことです。
しかし、どれも「入れようと思えば入る」というだけの発想であり、その陳腐すぎるアイデアには満足できませんでした。
楽器としての必然性や美しさに欠けているように感じていたのですね。
単に音を詰め込むだけでは、自分が納得できるものにはならなかったのです。
そんな中、ある時ふと、
「スリットを二重にしたらどうなるだろうか」という考えが浮かびました。
ひとつの音板に対して、
ふたつのスリットを設けることで、
オクターブ違いの音を内包できるのではないかという発想です。
このアイデアは、それまで考えていた
「スペースを増やす」「サイズを変える」といった方向とはまったく異なるものでした。
当然ながら、最初からうまくいったわけではありません。
スリットの幅、長さ、位置、バランス。
試作を重ねるたびに問題が現れ、その都度調整を行いました。
しかし、検証を重ねる中で、
二重スリットが確かに独立した音程を持ち、
なおかつタングドラムらしい響きを保てることが分かってきました。
こうして、二重スリット構造による製品化に成功し、
P12の原型が完成しました。
同じ構造を応用することで、
最終的には15音階まで音数を増やすことにも成功しました。
この方式の大きな利点は、
音数が増えても打面の配置が複雑にならない点にあります。
スリット内部にオクターブ違いの音が収まるため、
見た目としてもすっきりとした印象を保つことができます。
しかし現在は、単純に音数を増やすこと自体を重視していません。
15音階モデルは製作を中止しましたが、
二重スリット構造が生み出す倍音の豊かさは、非常に魅力的なものでした。
その特性を最もバランスよく活かせる形として、
12音階モデルとしてP12を残すことにしました。
P12の最大の特徴は、
二重スリット構造によって生まれる豊富な倍音成分です。
ひとつの音を鳴らしたとき、
単音として終わらず、内部で複数の成分が重なり合い、
音に厚みと奥行きを与えます。
そのため、P6などのシンプルなモデルと比べると、
音色はより深く、包み込むような印象になります。
各音にはオクターブ違いの音が含まれているため、
音の組み合わせとして非常に完成度の高い構成になっています。
高低差のある音を自然に行き来でき、
和音的な響きや重なりを意識した演奏にも向いています。
旋律的なフレーズから、
音を重ねるような演奏まで、無理なく対応できます。
P12では、音の調整を行うことで、
アタックの後に音がふわっと浮かび上がるような効果を持たせています。
叩いた瞬間だけでなく、
その後の余韻に意識が向くため、
聴いている側にも、演奏している側にも、
自然と呼吸が深くなるような感覚が生まれます。
この響き方は、
リラックスした演奏や、静かな時間に寄り添う音として、
特に効果を発揮します。
P12は、音数だけでなく、
一音あたりの情報量が多いモデルです。
そのため、
音に身を委ねるような演奏、
空間を満たすような響きを楽しみたい方には、
非常に相性の良いタングドラムです。