最近よく御来客がありますが、今日もお一人茨城の方から。ナカガワさん。
先日お電話をいただいていたものの、まだ未確定という事でしたがふらりと現れました。
ちょうど去年の今頃でしょうか「ぶらり途中下車の旅」でプロパノータを見て以来、ずっと気になっていたようです。
そういう方は意外に多いです。
電話では「P10」の話題が出ていましたので、塗装前状態まで仕上げたものをひとまず準備はしていました。
ご本人は「たくさんの音」や2重の音板特有の「ホワァ~~~~ン」と後から立ち上げっていくような音よりも、「打楽器的」に「自由に」演奏できる方が良いとのことでしたので、「P6」をお勧め。
ナカガワさんは「楽器未経験」というものの、音への感覚がとても鋭い方かもしれません。
P6を取り出し、音を鳴らしてもらいました。
僕の中では「2台の同じ」P6です。
2台の音を聴き比べたナカガワさん、どうも一つの音がとても気になるらしい。
具体的に言うとそれぞれの「ファ」の響きの違い。
音の高さ(音程)はほぼ同じ。
問題はその背後に隠れている響きの成分。
鳴らし方やどんな土台の上で鳴らすかによっても微妙にその成分が感じられたり、感じられなかったりするのでちゃんと計測してみました。
そうすると、確かにナカガワさんが良いといっていた方には高い音の成分が現れることが多い。
もう一方にも同じく高い音の成分が現れるものの、その出現頻度が少ない。
お恥ずかしい話、僕はそこまで聞き込んでおらず、音程重視でした。
良く皆さん「倍音、倍音」といいますが楽器の音の魅力にひとつはその「倍音」成分にあるといえるでしょう。
たとえば「ド」の音を鳴らしても、楽器はそれ以外の音も鳴っています。
ピアノの調律なんかでは「ド」を鳴らせばそれより高い「ミ」だったり「ソ」だったりの音の成分も入るように調律するそうです。
もし純粋に「ド」のみの音しか鳴らなかったらとても味気ないものとなってしまいます(音叉の音やテレビ終了時になるようなピーっていうたんなる機械音)。
僕も昔プロパノータの音を調節するときにはその倍音もコントロールできないものかといろいろ悩みましたが、挫折。
プロパノータのような構造の楽器は、中は空っぽで特に部品もありません。
音は切込みの「長さ」次第。
音板の裏側を削ったりしてチャレンジしたものの、素材自体がそこまで厚くないので効果的とはいえず。
また、ひとつの音を鳴らせば全体が振動することにより他の音の成分も微妙に出ています。
マリンバなどは音板の裏側を削ることで倍音調整も施されているようですが、音板に十分な厚みがあればこそ出来ることかもしれません。
また似たような楽器のグループに入れられることの多い、カリブのドラム缶楽器「スチールパン」も音板を叩いてチューニングする際、倍音成分も調整するそうです。
以前、スチールパン製作家である山口さんにチューニングを見せていただいたところ、チューナーを見ながら細かく叩き、微妙な倍音を調整していました。
(この時は簡易チューナーでしたね)
スチールパンとプロパノータは似て異なるものです。
スチールパンは面を叩くので、どちらかといえば叩いた瞬間の「アタック音」が強く、反面余韻はそれほど長くはありません。
一方プロパノータのような切込みを叩くスリットドラムは、切込み先端付近を叩くことでブランブランとその切込みが長く振動します。
音の原理は「親指ピアノ」とも呼ばれる「カリンバ」と同じです。
(たとえば机の端から定規を出して、その先っぽを弾いてブィーンと振動させるようなもん)
その振動力が強く、全体を揺らし一音だけではなくいろいろな音の成分が入ることで、心地よい響きへと繋がっているのかもしれませんが。。。
悩んだ結果、理想としてはアレコレいじくりまわさないで「素材の持つ響きを出来るだけ損なわずに鳴らす」といった考え方に落ち着きました。
しかし自分ではコントロールできないと思っていた音も「もし」コントロールできるようになれば、やっぱりその方が良いですからね。
その点を頭の片隅には常に入れておかねばなりませんねぇ。。。
ナカガワさんはちょっと変わったお仕事の従事者。
そのお話も興味深いものでした。
仕事内容をあまり「大っぴらにされると困る」というのでそれはヒミツ。
長時間吟味し、結果的に最初に気になっていた方をご購入。
この背後に隠れた音が気になっていた場合は、新たに製作しても「そのようになる」とは全く断言できませんからね。。
むしろそうならない可能性の方が高いと思います。
このような部分が楽器それぞれの個性といえるものなんでしょう。
「没個性」を目指し「同じ」ものを作っているつもりでも、その違いというものはどこからともなくやってくるもんなんですね。
何が違うのか・・・・
勉強になります。
ちょうど夕刻、別の方から「悩む~~~」とのお電話をいただきましたが、やはり悩みますよねぇ。。。
実際に工房まで足を運んで現物を見ることが出来れば一番良いのですが、都内近郊の方ばかりではありませんからね。
もちろん工房に長時間いたからといって「買えよこのヤロウ、買うまで帰さねーぞ」なんてことは無いのでご安心を。
自分でもいろいろなタイプを作りすぎたり、お客さんのご要望に合わせます!という結果、悩みを増幅させてしまっているだろうなぁ・・・とは思っているんですけれど。。。。。。